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トータルフットボールの意味とは?
トータルフットボールとはサッカーで用いられてきた戦術の1つです。簡単に説明するとポジションに縛られずに全員で攻撃と守備を行うようにするのがこの戦術のベースとなる考え方となります。そしてこのトータルフットボールという戦術を実行したのは1930年代にヴンダーチームと呼ばれたオーストラリア代表とも言われています。
しかし、トータルフットボールという戦術を世界的に知られたのは1974年のサッカーワールドカップがきっかけです。このワールドカップで準優勝したオランダ代表が決勝戦までに14得点1オウンゴールのみという恐るべき内容の試合を実現させていたのです。この結果によって海外を中心に世界中のチームに多大な影響を与えることになりました。
後ほど詳しく説明しますが、現在もこのトータルフットボールの影響受けた戦術を用いているチームが海外・国内関係なく存在しているほどです。それではそんなトータルフットボールという戦術は具体的にどのような内容の戦術なのか、最初に詳しく見ていきましょう。
(世界の名将達の戦術については以下の記事も参考にしてみてください)
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出典:Slope[スロープ]
トータルフットボールの具体的な戦術内容
それではトータルフットボールの具体的な戦術内容をいくつかの特徴に分けて詳しく解説していきます。現代の海外チームなどでも応用して使われているトータルフットボールの基本としてしっかりと意味を理解しておきましょう。
ポジションに縛られない
先ほども少し触れましたが、トータルフットボールという戦術の最大の特徴はポジションに縛られないことです。通常、サッカーではポジションごとの役割やポジショニングなどを考えてプレーを行います。しかし、トータルフットボールではスペースを意識して全員で攻撃、そして守備を行うのです。
実際、準優勝したオランダ代表ではキックオフを行う時の位置しか決まっていなかったほどです。それ以外の時間はボールを持てば積極的に前線へ攻め込み、守備の時は一般的なFWの選手でも守備のカバーに入ったりします。
このようにポジションに縛られることなく選手全員がスペースなどを意識しながら、攻撃や守備を行っていくのがトータルフットボールの基本的な考え方となります。ただ、それを実行するためには並外れた理解力やスタミナ、技術が必要とされるため、最初は実現は不可能とも言われていました。
スペースを軸にプレーを考える
1つ前の見出しでスペースという言葉が出ましたが、トータルフットボールではこのスペースを軸にプレーを組み立てるのも大きな特徴です。例えば、あえて本来のエリアから外れるように移動することで相手のDFの選手をおびき出し、それによってできたスペースに他の選手が入り込んでパスを出すといったことを行います。
もちろん、ここでもそれぞれのポジションごとにプレーするのではありません。それぞれがスペースを作るようにプレーし、できたスペースを意識して走り込んだり、パスを出したりして全員が連携して攻撃を行うのです。このようにスペースを軸にプレーを組み立てるのも一般的な考え方とは違うトータルフットボールの大きな特徴と言えます。
ショートパスでボールをキープする
トータルフットボールにはショートパスをつないで、ボールをできるだけキープするいわゆるポゼッションサッカーに近い考え方も含まれています。具体的には長いパスなどを行うよりはショートパスで確実に繋ぐようにすることで、相手に攻め込まれる可能性を少しでも減らすようにするのです。
実際、トータルフットボールの影響を受けたバルセロナの監督であるカルロス・レシャックは「ボールを70%支配すれば、80%は勝てる」と言っています。このようにボールをできる限り自分たちで持ち続けるプレーを行うというのもトータルフットボールの1つの特徴なのです。
(パスの1種であるキラーパスについては以下の記事も参考にしてみてください)
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ハイプレスによる守備
トータルフットボールという戦術での守備は高い位置でプレッシャーをかける、いわゆるハイプレスが行われます。ハイプレスによってフィールドのなるべく高い位置でボールを奪う様子はボール狩りと呼ばれるほどのものでした。
ちなみにチーム全体でハイプレスを行うことで必然的にオフサイドラインも高い位置に変わります。そしてその特徴を活かして、オフサイドを誘発させるいわゆるオフサイドトラップが生まれたという歴史もあります。
トータルフットボールは現代サッカーにも落とし込まれている
ここまでトータルフットボールの具体的な内容について解説しました。次はこのトータルフットボールの影響を受けた現代の海外、また国内の監督達の理論を紹介します。
アンジェ・ポステコグルー
オーストラリアのサウス・メルボルンで選手で活躍したアンジェ・ポステコグルー監督は過去にオーストラリアやギリシャなど海外チームを中心に監督として指揮を執っていました。また2021年6月まで日本国内の横浜F・マリノスでも監督を務めていました。
そんなアンジェ・ポステコグルー監督はトータルフットボールの影響を受けたサッカーをまさに横浜F・マリノスで実現しようとしていたのです。具体的にはトータルフットボールの基本的な考え方にボールを持っていない時でもすべての選手が関与するという考え方を加えたサッカーです。
基本的にトータルフットボールという戦術自体を実現させるのは非常に困難と言われています。しかし、アンジェ・ポステコグルー監督はさらにそれを発展させた戦術を実現させようとしていたのです。その結果が出たのか、横浜F・マリノスは2020年にチーム史上初ACLでの決勝トーナメント進出を達成しています。
(横浜F・マリノスに在籍していた中村俊輔の年俸については以下の記事も参考にしてみてください)
【2022最新】中村俊輔の年俸推移!デビューから現在・全盛期まで紹介!
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上野 展裕
国内の日本フットボールリーグに所属するヴィアティン三重で2021年6月まで指揮を執っていた上野 展裕監督もトータルフットボールの影響を受けている監督の1人です。1つ前に紹介したアンジェ・ポステコグルー監督とは違って、トータルフットボールを発展させるというよりはベースの考え方をそのまま活かすような考え方をしています。
なぜなら上野監督はトータルフットボールは普遍的な戦術で、特別なものではないと考えていたからです。上野監督はチームのサポーターに対してもその考え方を伝えて、実際にやっていきたいと答えています。そしてそれが現実となり、天皇杯では格上となるJ1のチームに勝利するといった成果も挙げることに成功したのです。
ミハイロ・ペトロヴィッチ
海外や日本国内の複数のチームで監督として活躍してきたミハイロ・ペトロヴィッチ監督もトータルフットボールの影響を強く受けている1人です。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の場合はミシャ流(ミシャ式)と呼ばれる独自のフォーメーションによる戦術を用いているのが特徴です。
ミシャ流を具体的に説明すると3-4-2-1というフォーメーションが基本となり、攻撃時と守備時によってそれぞれのポジションが変化するというシステムになっています。ハイプレスを回避しやすい、またトータルフットボールの特徴でもある攻撃スペースの作りやすさなどのメリットがあります。
2021年現在は北海道コンサドーレ札幌の監督を務めていますが、2019年にはミシャ流のサッカーでチーム初となるルヴァンカップ決勝戦への進出を果たしています。以前は浦和レッズの監督でもあり、その時にもクラブ史上最多タイとなる勝ち点を記録したり、ルヴァンカップ優勝などの成績を残しています。
ジャン・ピエロ・ガスペリーニ
次に紹介するのはイタリアの元サッカー選手で、引退してからはイタリア国内のインテルやパレルモ、アタランタを率いてきたジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督です。このジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のシステムの特徴は3-4-3の攻撃に重点を置いていることにあります。
もちろん、トータルフットボールという考え方も持っているため、FWであっても守備に参加したり、DFであっても攻撃に参加するように選手達に指導しています。しかし、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督は従来のトータルフットボールの特徴であるポゼッションサッカーのようなスタイルを好んでいません。
ショートパスで横や後ろで繋ぐのではなく、積極的に前に出るように意識するようにしているのです。現在のアタランタでも試合ではもちろん、練習中にも強く意識させているほどです。
ジョゼップ・グアルディオラ
マンチェスターシティをリーグ優勝に導いた名将であるジョゼップ・グアルディオラ監督もトータルフットボールの影響を受けています。トータルフットボールを世界に知らしめたヨハン・クライフ監督の指導をバルセロナの司令塔として直接受けていたのが大きな理由です。
そしてそんなジョゼップ・グアルディオラ監督が基本としているフォーメーションは4-3-3です。それをベースにしながら緻密な計算のもと、トータルフットボールの特徴である丁寧なパスによるボールの支配やスペースを作ることを行っています。
このようにジョゼップ・グアルディオラ監督はトータルフットボールという戦術を現代のサッカーに合うように計算した上で活用しています。そして実際にさまざまなリーグで最優秀監督に複数回選ばれるほどの実績を残すことに成功しているのです。
(バルセロナで使われていたティキ・タカという戦術については以下の記事も参考にしてみてください)
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岡田武史
国内チームや日本代表、また中国の杭州緑城などアジアを中心に指揮を執ってきた岡田監督もトータルフットボールの影響を受けています。特に1つ前に紹介したジョゼップ・グアルディオラ監督の影響が強いです。例えば、過去に行われたインタビューでは以下のように答えています。
グアルディオラのサッカーを見たとき、「まだまだイノベーションを起こす余地があるんじゃないか」と思った。グアルディオラのチームでは、サイドバックが中央でプレーすることがある。じゃあ、そもそもサイドバックはなぜ、サイドにいなきゃいけないの? そんな決まり事はないわけ。サイドバックと呼ぶから、サイドにいなきゃいけないと思い込んでいるだけで。
引用元:https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/202006170002-spnavi?p=2
このように岡田監督はグアルディオラ監督のトータルフットボールをベースにした戦術に刺激を受け、それを実際に日本代表などのチームでの戦術に取り入れています。具体的にはハイプレスやポゼッションなどまさにトータルフットボールの特徴であるやり方を採用していたのです。
(日本代表の年俸ランキングについては以下の記事も参考にしてみてください)
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出典:Slope[スロープ]
ヴァヒド・ハリルホジッチ
岡田監督と同じく日本代表を率いたヴァヒド・ハリルホジッチ監督もトータルフットボールに近い戦術を採用していました。岡田監督はハイプレスとポゼッションを意識していましたが、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督の場合はハイプレスとショートカウンターを組み合わせていました。
またポジションに縛られないというトータルフットボールならではの特徴も意識しています。実際、FWに守備を指示したり、DFにも積極的に攻撃するように指示をしたりしているほどです。このようにバルセロナやオランダ代表など海外チームで目立ったトータルフットボールという戦術は、日本代表の戦略にも大きな影響を与えているのです。
トータルフットボールは一生実現不可能?
ここまでトータルフットボールの具体的な戦術や現代の日本・海外サッカーでの活かされ方などを紹介しました。ただ、このトータルフットボールを本当の意味で実現するのは最初に不可能と言われたりもします。なぜなら攻守共に流動的な動きができる選手はもちろん、その選手たちを動きをまとめてコントロールできる能力を持つ優れた中心選手が必要だからです。
そしてそれが揃ったのが先ほども紹介したオランダ代表しかなかったと言われています。実際、過去の日本代表の監督だったイビチャ・オシム監督も「目指しているのはトータルフットボールだ。ただしそれは永遠に実現されないが。」と言ったほどです。
もちろん、ここまで解説したように現在、トータルフットボールの影響を受けた戦術に従ってサッカーを指導している監督はいます。しかし、世界に衝撃を与えたオランダ代表のようなトータルフットボールという意味では現在でも実現することはよほどの選手が揃わない限り難しいと言えるでしょう。
トータルフットボール理論の継承は終焉?
実現するのが困難とされるトータルフットボール理論の継承は終焉と考える人もいるでしょう。しかし、現在のサッカーを見てもリーグ優勝を果たすようなトップレベルのチームがトータルフットボールの理論が継承された戦術を採用しているの現実なのです。
現代のサッカーではオランダ代表が実現させたトータルフットボールそのものはポジションが場面ごとに変わるため非効率と言われる部分もあります。しかし、そのトータルフットボールがベースとなって改善された戦略は継承され、今もなお存在しています。
もちろん、今後もサッカーの戦術は変わっていく可能性があります。しかし、今の最先端の戦略を基に改善させて変わった場合は、それはつまりトータルフットボールも併せて継承されていると言えるでしょう。
トータルフットボールを理解しておこう
幻の戦略とも言われるトータルフットボールは現在の日本を含めたアジアや欧米等の海外チームで用いられている最先端の戦略にも大きな影響を与えています。そんなトータルフットボールを理解しておくと今のサッカーをより楽しめるようになります。知らなかった方はもう一度見直して、トータルフットボールの理解を深めておきましょう。