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筋トレ後の超回復は嘘?エビデンス無し?疑われる理由・真相を論文を元に解説!

2020年09月22日

筋トレ後の超回復は嘘か本当か?議論の多いこのテーマについて、嘘だと言われる理由や真相をさまざまな論文や研究結果をもとに徹底解説します。はたして超回復を信じてトレーニングに取り組んで良いのでしょうか?筋肥大を目指す方は必読です。

【監修】パーソナルトレーナー 高津諭

トレーニング指導歴22年。大阪・兵庫を中心に活動するパーソナルトレーニングを提供しています。現在、全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会のマスタートレーナーとして、またJOTスポーツトレーナー学院の校長として後進の育成、指導にも尽力している。HP / ブログ / Twitter

筋トレ後に起こる超回復は嘘という噂も…?

筋トレをした後は超回復により筋トレ前よりもパワーアップするという話は、筋トレが好きな方なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?また、超回復までの期間には休息と栄養を十分に摂り、超回復期間中に再び筋トレを繰り返すことで、どんどんパワーアップするとも言われています。これを参考に計画的にトレーニングをしている方も多いでしょう。

しかし、ここ数年で「超回復は嘘だった」「超回復なんてもう古い」という噂がネット上でよく見られるようになってきています。もし、超回復が嘘だったなら、それを信じて筋トレしてきた方にとっては衝撃的な話です。嘘か本当か、真相はいったいどうなっているのでしょうか?

そもそも筋トレ後に起こる超回復とは?

超回復が嘘か本当かを知る前に「そもそも超回復って何?」という方のために、以下で詳しく解説しましょう。

超回復についての公的情報

まずは、超回復とは何かについて、もう少し詳しく紹介しましょう。日本での健康や医療に関する行政を行っている厚生労働省では、下記のように紹介されています。

筋肉はレジスタンス運動を行うと筋線維の一部が破断されます。それが修復される際にもとの筋線維よりも少し太い状態になります。これを「超回復」と呼び、これを繰り返すと筋の断面積が全体として太くなり筋力が上がります。

引用元:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-092.html

分かりやすく表現すると「10」の筋肉が筋トレによって疲労し「5」になります。その後、休息により回復して「10」に戻り、さらに上回って「12」まで回復します。そこで再び筋トレで「7」になり、休息により回復して「12」になり「14」まで回復します。グラフで表すと波のように上下を繰り返しながら横軸の方向へどんどん上がっていくのが超回復理論です。

出典:http://shizenhamamaama.hatenablog.com/entry/2017/10/11/082652

回復に必要な休養と栄養

疲労した筋肉を回復させるには、休息を取ることと栄養を摂ることが必要とされています。疲労したまま筋トレを続けるとパフォーマンスが落ちてしまうどころか、フォームを保てずに怪我をしてしまう可能性も高まります。筋トレは控えて、しっかりと休息を取るようにしましょう。ゆっくりと入浴するようにしたり、十分な睡眠をとることで体は回復します。

栄養を摂ることも大切です。筋肉の素になるタンパク質が最も重要です。タンパク質が含まれている食材は、牛・豚・鶏などの肉類や魚類、乳製品です。植物性たんぱく質だと納豆や豆乳、豆腐などの大豆製品に多く含まれています。

また、タンパク質を分解して合成するために必要なビタミン類やミネラル類を摂取することも大切です。これらの栄養素がバランス良く配合されたプロテインやサプリメントは、手軽に摂れるだけでなく、余計なカロリーの摂り過ぎも防げて便利です。

超回復に至るまでの必要時間

筋トレを終えてから超回復に至るまでの時間は、2~3日と言われています。つまり、週に2~3回の筋トレが望ましいということです。しかし、この24時間の猶予幅はかなり曖昧のように感じるでしょう。これは、筋トレでの追い込み具合や個人差によるもので、2~3日の休息時間というのはあくまでも一般的な目安として考えられます。

筋トレ後の超回復はメカニズムが明確ではないから嘘?

では、どうして超回復が嘘だという噂があるのでしょうか?先ほど紹介した厚生労働省による超回復についての説明では、筋繊維が元のサイズよりも太くなることが超回復で起こる現象とされています。つまり「超回復で筋肥大する」ということになります。

しかし、この「筋トレで筋繊維が破断し、休養で回復したあと、さらに超回復で筋肥大する」という理論はいまだ研究中の分野であり、科学的メカニズムは明確にされていないのです。このことから超回復は嘘であるという噂が広がっています。

筋トレ後に起こる超回復に関する嘘情報

超回復についてはこれまで多くの人々から語られていますが、それぞれの分野からの見解や経験からの自論などが加えられやや迷信のように真実と嘘が入り混じっています。ここで、超回復理論について勘違いしやすいポイントや嘘情報を紹介しますので、チェックしてみましょう。

①筋トレで筋繊維は破断しない

「破断」とは、断ち切れることを言います。筋繊維が二つに切れてしまうことは、いわゆる肉離れの状態です。超回復をするために毎回筋トレで肉離れを起こしていては、筋肥大するどころか生活もままならないでしょう。中には「破壊する」と表現されるものもありますが、ここまで極端な表現はフィクションの世界の話。破断することで超回復するというのは嘘です。

正しくは「筋トレによって、筋繊維を構成する筋細胞の細胞膜が破損する」です。このことを「微細な筋損傷」として表現された論文も数多くあります。このポツポツとした微細な筋損傷は普段運動していない人が急に運動したり、高負荷での運動で起こるとされています。そして、損傷した箇所が修復され再生されることも証明されています。

②すべての人に同じように超回復は起こらない

残念ながら、すべての人が筋トレによって超回復が起こるわけではありません。例えば、高齢者や子どもは高負荷でトレーニングをすると、超回復が起こるよりも先に怪我をする可能性が高いので危険です。さらに、20代から50代の人であってもトレーニング初心者の場合は超回復が起こるとは限りません。

トレーニングを始めたばかりの頃はやればやるほど重たいダンベルが持てるようになり、超回復が起きているように錯覚してしまいます。しかしこれは、今まで運動しておらず使われなかった筋繊維が、筋トレによって刺激されているだけの状態です。以前よりも多くの筋繊維が使えるようになるために起きる現象といえます。超回復が起きているわけではないでしょう。

③回復のために筋トレそのものを休まなくてもよい

超回復のためには2~3日の休息が必要という考え方は間違いではありませんが、厳密にいうと超回復には「筋トレした部位の休養」が必要ということです。つまり、毎日部位を変えて筋トレすれば良いのです。例えば肩・腕、腹、背中、胸、脚というように分けて行えば、毎日ジムに通うことも可能です。

部位を分けて筋トレすることは、毎日ジムに通いながら適切に部位の休養ができるだけでなく、1回のトレーニング時間が短くなることで集中してトレーニングできる利点もあります。鍛えたい部位に意識を集中させることは、効果を上げるためにも大切なことです。

④超回復に必要な時間は48~72時間とは限らない

超回復に必要な時間は2~3日、つまり48~72時間と言われていますが、実はそうとは限らないのです。たとえば、睡眠不足の状態や「翌日急に上司からゴルフのお誘いがあった」などの休養が十分に取れなかった場合はさらに時間が必要です。また、筋肉の部位によっても回復時間が異なります。

大きな筋肉ほど回復時間が長く、小さな筋肉ほど回復時間が早いです。また、普段からよく使われる主に遅筋と呼ばれる筋肉の回復時間は早く、普段あまり使わない速筋といわれるような筋肉の回復時間は長くなります。超回復に必要な時間を計算して1週間の筋トレメニューを組むと良いでしょう。

(部位ごとの詳しい回復時間については以下の記事も参考にしてみてください)

⑤カーボローディング法に酷似している

1966年、Bergström & Hultmanによって、運動した後に糖質の高い食事を摂ることで運動前よりも筋グリコーゲンのレベルが超回復することが発表されています。この現象を利用した「カーボローディング」と呼ばれる手法が、現在のアスリートたちの間でも利用されてます。

筋グリコーゲンは、高強度の筋トレにおいて必要なエネルギー源です。疲労困憊するまでの運動によって筋グリコーゲンを枯渇させた後、炭水化物(糖質)の多い食事を摂ることで運動後24~48時間には運動前を上回る筋グリコーゲンが筋肉に貯蔵されます。そのタイミングで再び筋トレを行なうと、以前よりも長時間または高回数の筋トレが行なえるのです。

これはまさに、筋肥大する超回復と同じ原理で、この理論と混同されたことが超回復が嘘だと言われる最も有力な説です。しかし、筋肥大によって筋肉量が増えると、貯蔵できる筋グリコーゲン量も増えます。いずれにしても、相乗効果によってより高い効果を発揮できるようになるでしょう。

⑥「筋肉痛がないと効果がない」は嘘

筋肉痛は、慣れない運動や伸張性収縮でよく起こります。伸張性収縮とは筋肉が伸ばされながら力を発揮する、ベンチプレスでの肘を曲げる時の大胸筋の動きなどがその一例です。筋トレなどで微細な損傷を受けた筋繊維は、修復されるために炎症を起こします。痛みを感じる神経は筋繊維自体にはないので、この時点で痛みを感じることはありません。

痛みを感じる物質が筋膜まで達した時に痛みを感じるようになります。筋トレから1~2日後に筋肉痛が起こるのはこのためです。この時、血中にクレアチンキナーゼという酵素が増えます。このクレアチンキナーゼは筋繊維が損傷した時に増える物質で、損傷した筋繊維は修復・再生されます。

つまり、筋肉痛は筋繊維が損傷している証拠であり、超回復の可能性を示す指標とも言えます。しかし、超回復には必ず筋肉痛が必要というのは嘘です。筋肉痛がなくても筋肉は成長します。

(超回復と筋肉痛の関係については以下の記事も参考にしてみてください)

筋トレ後に起こる超回復をうまく利用する方法

ここでは、筋トレ後に起こる超回復をうまく利用するための方法として、筋トレ・栄養・休養のそれぞれのチェックすべきポイントを紹介します。

【筋トレ】追い込みで筋繊維を使いきる

筋肉を構成する筋繊維は遅筋、速筋、中間筋のおおよそ3タイプに分かれています。日常的によく使われているのが遅筋で、力は弱いですが持久性があります。速筋はその逆で、力は強いですがすぐに疲労してしまいます。どちらの特徴も併せ持つのが中間筋で、FRやtype2a、type2xなどと呼ばれています。

筋肥大をさせやすいのが速筋でであるため、筋トレによって速筋をうまく使うと筋力アップ・筋肥大につながります。しかし「速筋を使うぞ!」と言って簡単に使えるものではありません。これらの3タイプの筋繊維は遅筋、中間筋、速筋の順に使われるのです。これは、アメリカのヘンネマンが1965年に提唱した「サイズの原理」と呼ばれるものです。

したがって、ほんの数セットで行う筋トレでは速筋まで使われにくいため、できるだけ多くのセット数を力を使い切るまで行うとより筋肥大しやすいと言えます。先述した毎日部位を変えて筋トレを行なうという方法を使って、より長い時間同じ部位に対して追い込みをかけるとよいでしょう。

【筋トレ】心理的限界を超える

自身に追い込みをかけるにはもう一つ、心理的限界についても理解しておくとよいでしょう。人間は常に余力を残して活動しています。限界だと思っても、それは心理的に限界なだけであり、身体的限界はまだその上にあります。

日本体育学会副会長の勝田茂らによる著書「運動生理学20講」では、その差は2~30%あるとされています。また、同じ人物の心理的限界はその状況などにより、常に変化しています。1960年に発表されたMissiuroによる実験では、学力差のある二人の子供を同じ部屋で勉強させると、学力の低い子供の成績は上がり、高い子供の成績が下がるという結果が出ました。

相手がいるという状況に応じて心理的限界が増減した結果です。筋トレを行う際にもその日の出来事や環境などで心理的限界がどのように変化しているのか、自分自身と向き合って限界の力を発揮できるようにしてみましょう。

【筋トレ】オーバーロードの原理

筋トレ効果を上げるには「オーバーロードの原理」を利用することも重要です。過負荷の原理とも言われ、高い負荷をかけることでそれに抵抗できるように筋力がアップします。人間をはじめ生物にはストレスに対する免疫力がついています。

身長が伸びるにしたがって重力というストレスに抵抗するために自然と筋力がついてくるように、高負荷で筋トレすることでさらに筋力が増すのです。これは1回の筋トレではなく、継続的な筋トレの中で応用しましょう。負荷というストレスに慣れてきたら、さらに負荷をかけて筋肉を成長させることができます。

【筋トレ】意識性の原則

筋トレをしながら鍛える部位を意識する、というのはよく言われることです。しかし、意外と意識することは難しいものです。ある程度知識があれば、どこにどんな形の筋肉があって、どの方向にどの関節がどのくらいのスピードで動かされているのか、という具合に複合的に意識することができるでしょう。

初心者の場合は、大胸筋であればチェストプレスを行いながら、胸という表面的な部位を意識するだけでも十分です。しかし、さらにレベルアップしたいならば、骨格や骨格筋について少しずつ勉強してみるといいでしょう。

【栄養】筋タンパク質の分解を抑えるBCAA

筋肉は、安静中であっても常に分解と合成を繰り返しています。合成の比率が高まることで筋肥大を起こしますが、運動をするとすぐに筋タンパクの合成は弱まり、分解が促進されます。Phillips SMらにより1997年に発表された実験結果では、運動後24時間までは分解が続き、48時間後には運動前の状態に戻ったとされています。

この筋タンパクの分解を抑える効果があるBCAAというアミノ酸が、スポーツやトレーニングをする人たちの間で非常に注目されています。BCAAは肝臓で分解される他のアミノ酸とは違って直接筋肉で分解されるため、即効性のあるアミノ酸です。そのため運動直前や運動中に摂取すると良いとされています。

BCAAはタブレットや飲料などの形状で市販されているので、運動中でも摂りやすいのが特徴です。筋肉の合成を増やすことについて注目する人が多いですが、分解を抑えることも同時に行えば超回復の効果が現れやすくなるでしょう。

【栄養】筋タンパク質の合成を増やすタンパク質+BCAA+糖質

Phillips SMらによる同実験では、筋肉の合成は運動後48時間まで続くという結果が出ています。さらに、運動直後に栄養を摂ることでさらに合成が高まるという研究結果がいくつもあります。その栄養とはタンパク質、BCAA、糖質の3つです。

とくにタンパク質が重要で、吸収の早いホエイプロテインは運動直後に、運動後30分以降に摂るなら合成の持続力が高いカゼインプロテインがよいでしょう。そして、先ほど紹介したBCAAは、吸収が早いため運動直後に摂るのがおすすめです。

また、糖質はエネルギーの補給だけでなく、インスリン分泌されることによって筋タンパクの合成を促進する効果があり、タンパク質と同時に摂ることでさらに筋肥大の効果が高くなるとされています。

【休養】積極的休養と消極的休養を使い分けよう

休養を取る目的は心身の疲労を回復させることです。疲労を長期間放置したままにすると慢性的な疲労となります。そして自律神経の乱れ免疫力が下がり、病気になりやすくなるでしょう。また、ホルモンや消化酵素などの分泌系の能力も下がります。

休養には消極的休養と積極的休養があります。消極的休養とは、睡眠・入浴などの動かない休養のことで、激しい疲労や筋肉痛がある場合などに向いています。積極的休養は、ストレッチやウォーキングなどの動きながらとる休養で、血行促進や精神的なリフレッシュ効果があります。その時の体や精神状態に合わせた休養を取るようにしましょう。

【休養】睡眠の質を高める

睡眠は、浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)を繰り返すことで体や脳を休めています。この周期が乱れると十分に体が回復しないどころか、太りやすくなったり自律神経が乱れるなど、悪影響を及ぼします。

質の良い睡眠をとるには、ただ睡眠時間を取るだけでは得られません。夕食は寝る3時間前までには済ませ、お風呂に入ってリラックスした状態で寝るとぐっすり眠れます。また、寝る前のスマホやパソコンなど目に入る光の刺激は避け、朝目が冷めたら日光を浴びて体のスイッチをオンにしましょう。

筋トレ後に起こる超回復は嘘ではない!

筋トレ後の超回復が嘘か本当かについての議論は多くあります。しかし、人間には強いストレスに適応する能力があるため、筋トレで疲労した後に回復することで、その負荷に耐えうるように筋肥大するのは確かなメカニズムです。栄養や休息も適切に取って、超回復を目指して筋トレに取り組みましょう。