棘上筋の構造・作用
棘上筋(きょくじょうきん)とは、肩周りの筋肉群であるローテーターカフ(回旋筋腱板)のひとつです。ローテーターカフのなかでも特に重要な筋肉と言われており、肩を動かすときに働きます。まずは、棘上筋の構造や作用について詳しく見ていきましょう。
棘上筋の構造
棘上筋を含むローテーターカフは、肩甲骨の周辺から上腕骨の周辺まで広がる筋肉です。棘上筋はその中では浅いところにあり、肩甲骨の上から上腕骨周辺に付いています。なお、ローテーターカフには棘上筋の他に、棘下筋・小円筋・肩甲下筋があります。
棘上筋の作用
棘上筋は、同じく肩の筋肉である三角筋とともに、肩関節を外転する働きがあります。日常的な動作では、腕を横に上げるときに作用します。こうした働きがあるために、棘上筋はローテーターカフのなかで最も重要な筋肉と言われています。ただ、傷つきやすい筋肉でもあるため、ストレッチや筋トレで鍛えておく必要があります。
また、棘上筋を含むローテーターカフの筋肉は、全体として肩関節を安定させる役割があり、腕を動かす動作全般に広く関わっています。そのため、腕を使うスポーツを行う人にとっては鍛えることが必須の筋肉です。
棘上筋を柔軟にする・鍛えるメリット
棘上筋はインナーマッスルなので、筋トレやストレッチを行っても、見た目にはそれほど変化がありません。ただ、上でも解説したとおり重要な筋肉なので、強化することによりさまざまなメリットがあります。
肩の痛みやこりなどの予防効果が期待できる
棘上筋は傷つきやすい部位です。炎症を起こしてインピンジメント症候群という痛みを伴う症状が発生したり、亜脱臼したりすることもあります。棘上筋をトレーニングで鍛えたり、ストレッチで柔軟にしておくことにより、こうした症状の予防が期待できます。
また、棘上筋をはじめ、肩周りのローテーターカフや肩甲骨が硬くなると、肩こりや首の痛みを引き起こすことがあります。棘上筋を含むローテーターカフをトレーニングで鍛え、筋力を上げることにより、これらのトラブルを回避することができます。
腕を使うスポーツのパフォーマンスがアップする
棘上筋を含むローテーターカフは腕を動かす動作全般に関わるため、トレーニングして鍛えることにより、スポーツのパフォーマンスの向上が期待できます。特に、ものを投げる競技や、素早い腕の動作が必要とされる競技に関わってきます。野球やハンドボール、アメリカンフットボール、バスケ、バレーなどがそれに該当します。
これらのスポーツを行う方は、積極的に棘上筋やローテーターカフを鍛えてください。
(野球に必要な筋肉については以下の記事も参考にしてみてください)
野球に必要な筋肉を投球・打撃・走行別に!部位別の役割〜筋トレ方法まで解説!
出典:Slope[スロープ]
四十肩の予防ができる
肩より上に腕が上がらなくなる四十肩の原因は、肩関節が硬くなっていることなどにあると考えられています。棘上筋をはじめとするローテーターカフのトレーニングやストレッチを行うことで、肩周りの筋肉や関節が柔らかくなるため、四十肩の予防効果も期待できるのです。
棘上筋のストレッチメニュー
ここからは、棘上筋のストレッチを解説します。自宅でも簡単にできるメニューばかりなので、トレーニングのあとやお風呂上がりなどに積極的に取り組んでください。
棘上筋のストレッチ①
まずは、肩回しを解説します。棘上筋をはじめ、ローテーターカフの筋肉群や肩甲骨の柔軟性を高められる、基本的なストレッチです。
▼肩回しのやり方
①姿勢を正して椅子などに座る
②両手の指をそれぞれの肩に載せる
③横から見た時、肘で大きな弧を描くイメージで肘を回す
④ゆっくりと無理のない範囲で回す
10回ほど肩回しを行ったら同様に逆回しも行い終了です。
▼肩回しのコツ&注意点
・呼吸を止めず、自然に呼吸をしましょう
・猫背等にならないように姿勢を正した状態で行いましょう
・動作中は、肩についている指を離さないように気をつけましょう
・自分のできる範囲で無理なく行いましょう
スタート地点、一番広く開く点、一番高い点の位置がどのように変化しているのかを意識すると効果的です。肩回しで棘上筋と肩甲骨の柔軟性を上げていきましょう。
棘上筋のストレッチ②
伸ばしたい棘上筋がある側の肘を、もう一方の手で背中で持ち、肩甲骨を寄せるように伸ばしていくストレッチです。やり方を間違えると効果が薄れてしまうので、棘上筋を含むローテーターカフ全体を伸ばす意識で取り組みましょう。
▼後ろで手を組み伸ばすストレッチのやり方
①姿勢を正して椅子などに座る
②背面で伸ばしたい方の肘を逆の手で掴む
③肩甲骨を寄せるイメージで逆手で肘を引き寄せる
④ゆっくりと無理のない範囲で伸ばす
10秒ほどストレッチを行ったら同様に逆側も行い終了です。
▼後ろで手を組み伸ばすストレッチのコツ&注意点
・呼吸を止めず、自然に呼吸をしましょう
・猫背等にならないように姿勢を正した状態で行いましょう
・少し首を逆側に傾け、重心を伸ばす側に寄せると効果的です
このストレッチは、棘上筋だけでなく肩甲骨や腕、肩周り、さらには胸骨まで、幅広い範囲を伸ばすことができます。ある程度柔軟性がないと猫背になってしまいますので、まずは無理のない範囲で継続して行っていきましょう。
(ローテーターカフの筋トレについては以下の記事も参考にしてみてください)
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の筋トレ!構造・作用〜鍛え方のコツまで解説
出典:Slope[スロープ]
棘上筋のストレッチ③
背中で握手するためのストレッチです。棘上筋のある肩周辺を柔らかくすることができます。
▼背中握手のためのストレッチのやり方
①背中でタオルを持つ
②上の手で引っ張りながらキープする
③上の手で15回引っ張る
②の動作を20秒キープしたのち、③の動作に移りましょう。
▼背中握手のためのストレッチのコツ&注意点
・肩を前に出さず、後ろに引いたまま行いましょう
・痛くない範囲で行ってください
背中で握手ができるようになったら、その状態を10秒ほどキープすることでもストレッチになります。左右どちらの手を上にしてもできるように、棘上筋を含む肩の柔軟性を高めていきましょう。
棘上筋のトレーニングメニュー
ここからは、棘上筋のトレーニング種目を解説します。棘上筋を鍛えることにより、各種スポーツや筋トレのパフォーマンスアップが期待できるほか、肩周辺のトラブルを回避することにも繋がります。さまざまなトレーニングがあるので、自分に合った鍛え方を見つけてください。
棘上筋の筋トレメニュー①チューブサイドレイズ
棘上筋を鍛える筋トレとして、よく知られているのがサイドレイズです。まずは、チューブを使用するトレーニング方法で解説します。負荷を調整できるため、初心者や高齢者の方にもおすすめです。
▼チューブサイドレイズのやり方
①姿勢を正し、チューブを踏んで立つ
②腕を上げる
③ゆっくりと元に戻す
チューブサイドレイズの最適な回数は、筋トレの目的によって変わります。筋力アップのためには1~6回、筋肥大のためには6~12回、筋持久力アップのためには15回以上を目安にしてください。重量は、その回数で限界がくる程度に設定します。
また、セット数は、トレーニングのステータスに応じて決めましょう。初心者の方は週1回3セット、上級者の方は週2回6セット程度がおすすめです。
▼チューブサイドレイズのコツ&注意点
・息を止めず、自然に呼吸をしましょう
・トレーニングを行う側の足を少し引いてあげるとやりやすいです
・チューブを持つ手の手首を返さず、肘も曲げないようにしましょう
動作中、肩はいかり肩の状態にしておきましょう。また、下げるときは、下げきらないで切り返すのがポイントです。
ずーみー(泉風雅)
トップポジションでの負荷が大きい収縮種目です。チューブを前に引っ掛けて行うと、三角筋に高い負荷を掛けることができます。
(サイドレイズについては以下の記事も参考にしてみてください)
サイドレイズの種類&フォーム!確実に肩に効かせるコツ〜重量・回数まで解説
出典:Slope[スロープ]
(動画で見たい方はこちら)
棘上筋の筋トレメニュー②ダンベルサイドレイズ
続いては、ダンベルで行うサイドレイズを解説します。棘上筋を鍛えつつ、たくましい肩を手に入れたい人にぜひ行ってほしいトレーニングです。
▼ダンベルサイドレイズのやり方
①ダンベルを両手に持って立つ
②ダンベルを30度ほど前に出しながら横に上げる
③ゆっくり下ろす
ダンベルサイドレイズの最適な回数は、チューブのパターンと同様に筋トレの目的によって設定してください。重量も同じように、その回数で限界がくる程度のものを扱います。ただ、サイドレイズは重い重量は扱えない種目である点に注意してください。初心者の方は、まず1kgや2kgのダンベルで行うことをおすすめします。
セット数もチューブのパターンと同じく、トレーニングのステータスによって変えてください。初心者は週1回3セット、上級者は週2回6セットが目安です。
▼ダンベルサイドレイズのコツ&注意点
・肘は伸ばしきらず少し曲げるくらいで行ってみましょう
・肘が先に上がらないようにしましょう
・動作中はいかり肩の状態をキープしましょう
腕を真横ではなく少し前に出すことで、自然な動きになります。
ずーみー(泉風雅)
(チューブトレーニングの効果抜群メニューについては以下の記事も参考にしてみてください)
チューブトレーニングの効果抜群メニュー!腹筋・背筋・肩・太もも・胸筋など部位別にコツを解説!
出典:Slope[スロープ]
棘上筋の筋トレメニュー③リバースダンベルサイドレイズ
肩甲骨を自然に動かすことにより、棘上筋や僧帽筋に効果的な負荷をかけるトレーニングです。ウォームアップやリハビリにも適しています。
▼リバースダンベルサイドレイズのやり方
①ダンベルを両手に持ち直立する
②ダンベルを回しながら頭の上まで上げてる
③ゆっくりと元に戻す
リバースダンベルサイドレイズの最適な回数及び重量は、ダンベルサイドレイズと同様に筋トレの目的によって設定しましょう。ただ、ダンベルサイドレイズよりも高重量が扱えない種目であるため、重量の設定は慎重に行ってください。セット数も同じく、トレーニングのステータスに応じて決めると良いでしょう。
▼リバースダンベルサイドレイズのコツ&注意点
・猫背等にならないように姿勢を正した状態で行いましょう
・肘は伸ばした状態で行いましょう
・肩甲骨を寄せて可動域を広げるようにしましょう
リバースダンベルサイドレイズは頭の上までダンベルを上げるため、バランスを取るのが難しいトレーニングです。無理のない重量で行うようにしてください。
ずーみー(泉風雅)
リバースダンベルサイドレイズは、棘上筋をはじめとするローテーターカフや肩甲骨など、幅広い範囲を効果的に鍛えられる種目ですが、正しいフォームで行うことが大切です。フォームが間違っていると効果も半減してしまうので注意してください。
棘上筋の筋トレメニュー④ダンベルシュラッグ
ダンベルシュラッグは、僧帽筋の上部や中部のほか、棘上筋を含むローテーターカフなども鍛えることができるトレーニングです。
▼ダンベルシュラッグのやり方
①姿勢を正して肩幅くらいの足幅で立つ
②ダンベルを両手に持つ
③肩をすくめるように肩甲骨を上げる
④元の姿勢に戻る
ダンベルシュラッグの最適な回数も、他のトレーニングと同じく、筋力アップのためには1~6回、筋肥大のためには6~12回、筋持久力アップのためには15回以上が目安です。重量は、その回数で限界が来るものを扱いましょう。セット数も同様に、初心者は週1回3セット、上級者は週2回6セットがおすすめです。
▼ダンベルシュラッグのコツ&注意点
・肩を耳につけるイメージで行いましょう
・顎を上げないようにしましょう
シュラッグは、バーベルを使用してさらに高い負荷で行うこともできますが、ダンベルで正しいフォームを身につけておくと、より効果的に棘上筋や僧帽筋を鍛えることができます。
ずーみー(泉風雅)
可動域いっぱいまで肩を動かすことが重要なので、ダンベルの重量設定は無理に重くしないようにしてください。
(ダンベルシュラッグについては以下の記事も参考にしてみてください)
ダンベルシュラッグのやり方!僧帽筋上部を鍛えて背中の肥大・肩こり改善を促すコツを解説
出典:Slope[スロープ]
(動画で見たい方はこちら)
棘上筋のストレッチ・トレーニングをマスターしよう
棘上筋をトレーニングして鍛えたり、ストレッチで柔軟性を上げたり、可動域を広げたりすることによって、さまざまなスポーツでの動作改善が期待できます。また、肩こりによる痛みの改善や、血行促進にも効果的です。正しい動作でストレッチやトレーニングを行い、効率的に棘上筋を鍛えていきましょう。